流体力学(前編)を読む 第1回
本書5項.流れを表わす方法
・はじめに
本記事では流体力学で最も基本的かつ重要なラグランジュ的記述法とオイラー的記述法について述べます。
・本題
一般的な力学で物体の運動を記述するには、その物体を点とみなして扱い諸種の物理量を考えればよかった。しかし流体力学では注目すべきその物体が曖昧である。そのため流体のどの部分に注目して物理量を考えていくかを決めなければならない。
これには2通りのやり方がある。ひとつはある流体粒子を時間とともに追いかけて、その粒子に関する物理量を扱う方法。たとえば時刻 に位置 にあった粒子に注目して、これが任意の時刻 に位置 に移動しているとすると、 は
\begin{align}
x &= f_1(a,b,c,t) \\
y &= f_2(a,b,c,t) \\
z &= f_3(a,b,c,t)
\end{align}
のように表わされる。
これに対し、もう一方のやり方は時間とともに粒子を追わず、ある特定の位置 における物理量を扱う方法である。たとえば任意の時刻 の位置 における流速 を考えるなどである。前者をラグランジュ的記述、後者をオイラー的記述と呼ぶ。
わかりにくいので数式を使ってもう少し具体的に説明しよう。いまある物理量が位置 と時刻 の関数として与えられるものとする。そしてこの時刻のこの位置にある流体粒子を微小時間 追いかけると、この粒子の物理量 の微小変化 は次のようになる。(ラグランジュ的記述)
\begin{align}
\Delta F &= F(x+u\Delta t, y+v\Delta t, z+w\Delta t) - F(x,y,z,t) \\
&= \frac{\partial F}{\partial x} u\Delta t + \frac{\partial F}{\partial y} v\Delta t +\frac{\partial F}{\partial z} w\Delta t +\frac{\partial F}{\partial t} \Delta t + O((\Delta t)^2) \tag{1.1}
\end{align}
2行目の式変形にはテイラー展開が用いられている。またはのオーダー(大きさ)より小さい項を表わしている。もう少し進めよう、両辺を で割って の極限をとると
\begin{align}
\lim_{\Delta t \to 0} \frac{\Delta F}{\Delta t} = \frac{\partial F}{\partial x} u + \frac{\partial F}{\partial y} v+\frac{\partial F}{\partial z} w +\frac{\partial F}{\partial t} \tag{1.2}
\end{align}
右辺の はきれいに消去され以下の項は よりに収束することでこれもまた消える。
さて右辺のの意味を考えてみよう。これは の に関する偏微分。すなわちを固定したときの時間的変化率でありこれはオイラー的記述である。よってここにラグランジュ的記述とオイラー的記述に関する関係式が得られたわけである。いま物理量を取り除いて微分演算子だけで表わすと
\begin{align}
\frac{D}{Dt} = \frac{\partial}{\partial t} + {\bf v} \cdot \mathrm{grad} \tag{1.3}
\end{align}
ここで左辺の という表記はラグランジュ微分といいラグランジュ的記述における時間微分であることをオイラー的記述と区別するためにこう表記する。
・まとめ
流体力学の本などを見ると最初に出てきてややこしいのがこのラグランジュ記述とオイラー記述でしたのでまとめておきました。 と の違いがわからないと今後式の中で混乱が生じるので押さえましょう。