流体力学(前編)を読む 第20回
・はじめに
今回は等角写像を導入します。これにより円柱まわりの流れを自在に変形することが可能となり、任意の物体まわりの流れを知ることができるようになります。
・本題
いま 、 と定義し、それらが正則関数
\begin{equation}
z=g(\zeta) \tag{20-1}
\end{equation}
の関係を持っているとする。つまり複素数 と は関数 によって写像関係にある。(20-1)式の微分を取ると
\begin{equation}
dz=g'( \zeta)d \zeta \tag{20-2}
\end{equation}
を得るが、いま
\begin{equation}
dz=dr e^{i \theta}, \hspace{20pt} d \zeta = ds e^{i \phi} , \hspace{20pt} g'(\zeta)=A e^{i \alpha}
\end{equation}
と仮に極座標表示で表せば(20-2)式は
\begin{equation}
dr e^{i \theta}=A e^{i \alpha} ds e^{i \phi} =Ads \ e^{i(\phi+\alpha)}
\end{equation}
となり
\begin{equation}
dr=Ads, \hspace{20pt} \theta=\phi + \alpha \tag{20-3}
\end{equation}
と書き表せる。さて(20-3)式が意味するところはfig.1に示した通り、 平面の点 付近の微小線分 が長さを 倍、角度を だけ増加させられ 平面の点 付近に微小線分 として写像されることを表している。
当然この対応関係は導関数 が存在するすべての点に存在するから、たとえば 平面上の任意の図形は 平面上に相似な図形として写像される。よってこのような写像を等角写像という。導関数が存在するということはその写像関数は正則関数であるわけだから、逆に任意の正則関数はすべて等角写像として振る舞うことになる。ただし導関数 が存在しても や の場合には回転角 が定まらないため等角性は成り立たない。そのためこのような点を写像の特異点という。
さてここまでは等角写像の数学的な一般論を述べてきたが、ここからは流体力学における等角写像の応用について見ていきたい。まず今まで議論してきた複素速度ポテンシャル についてもう一度考えてみよう。たとえば正則関数 を
\begin{equation}
w=f(z)=\varPhi + i \varPsi \tag{20-4}
\end{equation}
と定義すると、これは関数 が 平面から 平面への等角写像として作用する関数として解釈できる。また と は 平面で見ると実部と虚部が一定の直線群を表す(fig.2 左)。
この 平面上の と を の逆関数により 平面に写像すると得られるのが実際の流れであった。たとえば の曲線群は流線そのものであるし、 はそれらに直交する等ポテンシャル線を表すからである(fig.2 中央)。またこのとき写像の等角性から 平面において直交していた と は 平面においてもその直交性を保っていることがポイントである。
ここでさらに
\begin{equation}
z=g(\zeta) \tag{20-5}
\end{equation}
という正則関数で関係付けられる 平面なるものを考えてみよう。(20-4)式に(20-5)式を代入すると
\begin{equation}
w=f(z)=f(g(\zeta))=f \circ g(\zeta)
\end{equation}
が得られる。ここで合成関数 もやはり正則関数であるから等角写像として作用する。よって 平面上の と をその逆関数により写像して得られた 平面上の曲線群もやはり実際の流れを表している(fig.3 右)。
ここで fig2 に示したのは
\begin{align}
w&=f(z)=z+\frac{1}{z} \tag{20-6}\\[6pt]
z&=g( \zeta)=e^{-i \alpha} \zeta \tag{20-7}
\end{align}
の関係性によって与えられる、左から 平面、 平面、 平面の様子である。(20-6)式は以前説明した静止円柱まわりの一様流の様子を表す式である。また(20-7)式は平面を角度 だけ回転させる式である。よってこの関数の合成によって得られる 平面の流れとはすなわち角度 で流れる一様流中に置かれた静止円柱のまわりを流れる流体の様子である。
このテクニックを用いることで、 平面上に描かれる静止円柱まわりの一様流という基本的な流れを、適当な関数 を選ぶことで 平面上に様々な形の物体まわりの流れとして描くことが可能になる。
ここでわざわざ2段構えの写像ではなく最初から なる関数を見つければ済むと思いがちだが、静止円柱まわりの一様流のところでやったようにこのような関数 の一般形を導くのは通常容易ではない。静止円柱の場合はその半径を1として境界条件を設定し を代入して関数 を導いたから比較的簡単に求まったのであって、これが複雑な形の物体になった場合はその複雑な境界条件をもとに関数 を導かなければならず、それは通常困難である。
さて本書では等角写像の話がわずか2ページほどしか書かれていないが、数学としてちゃんと扱おうとするとこれもまた結構なボリュームになる。たとえば 平面上のある閉曲線 に沿った循環 と 平面上に写像されたこれに対応する閉曲線 に沿った循環 の関係は
\begin{equation}
\Gamma(C)=\Gamma ' (C')
\end{equation}
であるといったことなど、本当はもう少しちゃんと向き合わなければならない部分もありそうなのだがここでは省略する。詳しく知りたい方は、本記事を書くにあたり参考にさせていただいた「二次元翼理論(等角写像とジューコフスキーの仮定」*1を見ていただければと思う。
・まとめ
等角写像というテクニックを手に入れたら、あとはいかにうまく関数 を見つけられるかに掛っています。ただこの点についてはすでに代表的なものが発見されていますので、次回以降はそれを紹介していきます。
*1:二次元翼理論(等角写像とジューコフスキーの仮定) fnorio.com