社会人からの物理と数学

趣味ではじめた物理や数学の内容を備忘録としてまとめていきます。

流体力学(前編)を読む 第15回

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本書 第28項 静止円柱を過ぎる一様な流れ

・はじめに
 前回は縮まない2次元の渦なし流がべき級数展開によって表されることを見てきました。今回はもう少し具体的にある物体の周りの流れを複素速度ポテンシャルを用いて表現していきたいと思います。

・本題
 物体の周りを流れる流体の表現として最も簡単な例が円柱の周りを流れる一様流である。円柱と言っても2次元流を考えているのでここでは円になる。それでは図に示すように半径1の円に速度 U の一様な流れが当たる場合を考えてみよう。
f:id:youski:20180928203615j:plain:w400
 前回説明したようにまずは df/dz の一般形を考える。
\begin{equation}
\frac{df}{dz}=\cdots +c_{-3}\frac{1}{z^3}+c_{-2}\frac{1}{z^2}+c_{-1}\frac{1}{z}+c_0+c_1 z + c_2 z^2+ \cdots \tag{15-1}
\end{equation}
 ここで df/dz が流速を表していたことを思い出すと、まず z の1次以上の項が取り除かれる。なぜならばこれらの項が存在すると無限遠で流速が発散してしまうが、それはあり得ないからである。また0次の項の c_0U である。なぜならば1次以上の項を取り除くとすれば、無限遠では c_0 だけが残るが無限遠では一様流のみが残ると期待されるからである。ここまでの事実を踏まえて(15-1)式を書き直すと
\begin{equation}
\frac{df}{dz}=\cdots +c_{-3}\frac{1}{z^3}+c_{-2}\frac{1}{z^2}+c_{-1}\frac{1}{z}+U \tag{15-2}
\end{equation}
が得られる。この式をこのまま積分すれば
\begin{equation}
f= \cdots - \frac{c_{-3}}{z^2}-\frac{c_{-2}}{z} +c_{-1} \log z+ Uz +C
\end{equation}
を得る。ただし最後の C積分定数であり、これを変えても特に流れの様子に影響はない。少し式の形が不格好なので以下のように書き直すことにする。
\begin{equation}
f=Uz+C+k_0 \log z + \frac{k_1}{z} + \frac{k_2}{z^2}+ \cdots \tag{15-3}
\end{equation}
さてこのようにして得られた(15-3)式が物体の周りを一様流が流れたときの複素速度ポテンシャルの一般形である。
 では次に円柱表面の境界条件を与えて係数 k_0,k_1 \ \cdots を求めてみよう。円柱表面 |z|=1 は流線に一致するから
\begin{equation}
\varPsi=\mathrm{Im}\ f = \mathrm{const}
\end{equation}
が要求される。そこで f の虚部を取り出すために各係数をそれぞれ
\begin{equation}
C=a_0+ib_0,\hspace{10pt} k_0=m+i\kappa,\hspace{10pt} k_n=a_n+ib_n \hspace{10pt} (n=1,2, \cdots)
\end{equation}
とおいて、円柱表面 e^{i\theta} での f を計算すると、
\begin{align}
f&=Ue^{i\theta}+a_0+ib_0+(m+i\kappa)i\theta+\sum_{n=1}^{\infty}(a_n+ib_n)e^{-ni\theta}\\
&=U \cos \theta +a_0 -\kappa \theta + \sum_{n=1}^{\infty} (a_n \cos n\theta+b_n \sin n\theta)\\
&+ i \ \left\{ U \sin \theta + b_0 + m\theta + \sum_{n=1}^{\infty} (b_n \cos n\theta-a_n \sin n \theta) \right\}
\end{align}
を得る。\varPsi=\mathrm{Im}\ f = \mathrm{const} であるためには
\begin{equation}
m=0, \hspace{10pt} a_1=U,\hspace{10pt} b_1=0, \hspace{10pt} a_n=b_n=0 \hspace{10pt}(n=2,3,\cdots)
\end{equation}
でなければならない。つまり
\begin{equation}
k_0=i \kappa,\hspace{10pt} k_1=U, \hspace{10pt} k_n=0 \hspace{10pt} (n=2,3, \cdots)
\end{equation}
が要求される。これを(15-3)式に代入すれば結局
\begin{equation}
f=Uz+i \kappa \log z +\frac{U}{z} \tag{15-4}
\end{equation}
が求める複素速度ポテンシャルである。ただし C は特に意味がないので省略した。
 この結論からわかることは、一様流に置かれた円柱まわりの流れは一様流 Uz、渦糸 i\kappa \log z、そして二重わき出し U/z の3つの流れの重ね合わせとして表現されることである。ただし渦糸の強さ \kappa はこのような境界条件だけではまた未定である。

・まとめ
 今回は半径1の円柱周りを流れる一様流という簡単な流れだけを記述しました。ところがこの簡単な流れを記述できてしまえば、あとは座標変換によって様々な物体の流れを表現できてしまうことになります。もちろん翼のまわりの流れもその例外ではありません。というわけで、いよいよ翼に関する話が視界に入ってきました。ですがその前にもう少し円柱周りの流れについて詳しく調べてみる必要がありそうです。たとえば(15-4)式の \kappa はまだ未定ですし、円柱に働く力もまだ解明していません。そこで次回はまず \kappa に焦点を当てて議論していきたいと思います。