流体力学(前編)を読む 第19回
・はじめに
前回は任意の形の物体に働く力を求めました。そしてその前は一様流が円柱に及ぼす力を求めました。今回はこれらを融合して、一様流が任意の形の物体に及ぼす力を求めてみたいと思います。
・本題
第15回の記事で書いたように、 軸に平行な速度 の一様流が作る流れの複素速度ポテンシャルの一般形は
\begin{equation}
f=Uz+C+k_0 \log z + \frac{k_1}{z} + \frac{k_2}{z^2}+ \cdots \tag{19-1}
\end{equation}
で与えられる。
よって複素速度はこれを微分して
\begin{equation}
\frac{df}{dz}=U+\frac{k_0}{z}-\frac{k_1}{z^2}-\frac{2k_2}{z^3}-\cdots \tag{19-2}
\end{equation}
で与えられる。
さて物体に働く力はブラジウスの公式
\begin{equation}
F_x-iF_y=\frac{i}{2} \rho \oint_C \left( \frac{df}{dz} \right)^2 \ dz \tag{19-3}
\end{equation}
によって得られることを前回理解した。つまり(19-2)式を2乗して(19-3)式に代入すれば物体が受ける力の具体的な形を得ることができる。
\begin{equation}
\left( \frac{df}{dz} \right)^2=U^2+2k_0 U \frac{1}{z} +(k_0^2-2Uk_1)\frac{1}{z^2}+O\left(\frac{1}{z^3} \right) \tag{19-4}
\end{equation}
であるが、実は
\begin{equation}
\oint_C z^n dz = \left\{
\begin{array}{c}
\displaystyle \left[ \frac{z^{n+1}}{n+1} \right]_C =0,\hspace{20pt}n\neq-1\\
\displaystyle [\log z]_C=2 \pi i,\hspace{20pt}n=-1
\end{array}
\right.
\end{equation}
という事実(補遺参照)から(19-4)式の積分は の項しか残らない。したがって(19-3)式は
\begin{equation}
F_x-iF_y=\frac{i}{2} \rho \oint_C 2k_0 U \frac{1}{z} \ dz =-2 \pi \rho U k_0 = -2 \pi \rho U (m+i\kappa)
\end{equation}
と整理される。ただし対数関数の係数である とした。
ここで第13回の記事の内容を思い出すと、循環 、湧き出し はそれぞれ
\begin{equation}
\Gamma=-2\pi \kappa , \hspace{20pt} Q=2 \pi m
\end{equation}
で表現されたから上の式は
\begin{equation}
F_x-iF_y=-\rho U (Q-i\Gamma)
\end{equation}
とまとめられる。すなわち実部と虚部を分ければ
\begin{equation}
F_x=- \rho U Q ,\hspace{20pt} F_y=-\rho U \Gamma
\end{equation}
であることが導かれる。要するに一様流が物体に及ぼす力とは湧き出しと循環の存在にのみ左右されていることが分かる。
(補遺)
原点 を正の向きに1周する任意の閉曲線 について以下の線積分が
\begin{equation}
\oint_C z^n dz = \left\{
\begin{array}{c}
\displaystyle \left[ \frac{z^{n+1}}{n+1} \right]_C =0,\hspace{20pt}n\neq-1\\
\displaystyle [\log z]_C=2 \pi i,\hspace{20pt}n=-1
\end{array}
\right. \hspace{20pt} \cdots \hspace{5pt} *
\end{equation}
となることを証明する。ただし は整数とする。
まず積分路 は正則な領域 内で自由に変形することができる。この場合 は を除けば至るところで正則なので、 に触れない限り積分路 は自由に設定することができる。そこで今原点を中心とする単位円 を積分路に取ると
\begin{equation}
z^n=e^{ni \theta}, \hspace{20pt} dz=i e^{i \theta} d \theta
\end{equation}
のように極座標形式に書き換えられるので
\begin{eqnarray}
\int_K z^n dz&=&i \int_0^{2\pi} e^{(n+1)i \theta} d\theta\\[8pt]
&=& \left\{
\begin{array}{cc}
\displaystyle \frac{1}{n+1}\left[ e^{(n+1)i \theta} \right]_0^{2\pi}=0&n \neq -1 \\[8pt]
\displaystyle i \int_0^{2\pi} d\theta=2\pi i & n=-1
\end{array}
\right.
\end{eqnarray}
よって が証明された。
・まとめ
計算はそこそこ複雑ですが、得られた答えは極めてシンプルでした。つまり一様流が物体に及ぼす力は流体の密度 、流速 そして一様流に平行な成分であれば湧き出し 、鉛直成分であれば循環 を掛けるだけで得ることができます。そして揚力に相当する鉛直方向の力を表す式をクッタジューコフスキーの定理というのでした。これは円柱に働く力で求めた式とまったく同じものです。
そして次回からはいよいよ座標変換の話に入ります。この操作をすることで今まで扱っていた円柱を平板や円弧、そして翼などの形に変換しその周辺の流れの様子やそれに働く力を明らかにしていきます。