社会人からの物理と数学

趣味ではじめた物理や数学の内容を備忘録としてまとめていきます。

流体力学(前編)を読む 第4回

本書 第13項 運動方程式の第1積分

・はじめに
今回は第2回の記事で得た運動方程式を足がかりにベルヌーイ関数\boldsymbol{H}を得るまでの流れを追います。そしてそこから得られるベルヌーイの定理について見ていきたいと思います。


・本題
まずは流体の運動方程式を再掲する。
\begin{equation}
\frac{D\boldsymbol{\mathcal{v}}}{Dt}=\boldsymbol{K}-\frac{1}{\rho}\ \mathrm{grad}\ p \tag{4-1}
\end{equation}
また左辺のラグランジュ微分は第1回の記事で示した通り、以下のようにオイラー形式に書き直すことができる。
\begin{equation}
\frac{D\boldsymbol{\mathcal{v}}}{Dt}=\frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t}+(\boldsymbol{\mathcal{v}}\cdot \mathrm{grad})\boldsymbol{\mathcal{v}} \tag{4-2}
\end{equation}
さらにベクトルの微分に関する公式*1から(4.2)式の右辺第2項を少し書き換える。すなわち
\begin{align}
\nabla({\bf A}\cdot {\bf B})&=({\bf B}\cdot \nabla){\bf A}+({\bf A}\cdot \nabla){\bf B}\\
&+{\bf B}\times(\nabla \times {\bf A})+{\bf A}\times(\nabla \times {\bf B}) \tag{4-3}
\end{align}
を用いて、{\bf A}{\bf B}をいずれも{\boldsymbol{\mathcal{v}}}とおけば
\begin{align}
{\mathrm{grad}}(\boldsymbol{\mathcal{v}}\cdot\boldsymbol{\mathcal{v}}) &= (\boldsymbol{\mathcal{v}}\cdot \mathrm{grad})\boldsymbol{\mathcal{v}} + (\boldsymbol{\mathcal{v}}\cdot \mathrm{grad})\boldsymbol{\mathcal{v}}\\
&+\boldsymbol{\mathcal{v}}\times(\mathrm{rot}\ \boldsymbol{\mathcal{v}})+\boldsymbol{\mathcal{v}} \times (\mathrm{rot}\ \boldsymbol{\mathcal{v}})\\
\mathrm{grad}\ |\boldsymbol{\mathcal{v}}|^2 &= 2\ (\boldsymbol{\mathcal{v}}\cdot \mathrm{grad})\boldsymbol{\mathcal{v}}+2\ \boldsymbol{\mathcal{v}} \times \mathrm{rot}\ \boldsymbol{\mathcal{v}}\\
(\boldsymbol{\mathcal{v}}\cdot \mathrm{grad})\boldsymbol{\mathcal{v}}&=\mathrm{grad} \left(\frac{1}{2}q^2 \right)-\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \mathrm{rot}\ \boldsymbol{\mathcal{v}}\ \text{、}\hspace{10pt} q=|\boldsymbol{\mathcal{v}}| \tag{4-4}
\end{align}
を得る。ここで(4-1)式と(4-4)式をそれぞれ(4-2)式に代入して整理をすると最終的に
\begin{align}
\boldsymbol{K}-\frac{1}{\rho}\ \mathrm{grad}\ p &= \frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t}+\mathrm{grad} \left(\frac{1}{2}q^2 \right)-\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \mathrm{rot}\ \boldsymbol{\mathcal{v}}\ \text{、}\hspace{10pt} \mathrm{rot}\ \boldsymbol{\mathcal{v}}=\boldsymbol{\omega}\\
\frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t}&=\boldsymbol{K}-\frac{1}{\rho}\ \mathrm{grad}\ p - \mathrm{grad} \left(\frac{1}{2}q^2 \right) + \boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega} \tag{4-5}
\end{align}
を得ることができる。ここまでの流れをまとめると、要するに(4-1)式の運動方程式からラグランジュ微分を取り払らいオイラー形式に変形しただけである。またここで渦度\boldsymbol{\omega}が出てきたことも興味深い。

さてここからはいくつかの条件を課しながら、(4-5)式をより見栄えの良いものにしていく。まずは以下のような条件を課そう。

条件1 外力{\bf K}は保存力
{\bf K}が保存力であることは、これが一般的に重力を表すことからも特に違和感はない。そして保存力であればポテンシャル\Omegaが存在し{\bf K}は保存力の定義に従って以下のように表される
\begin{equation}
\boldsymbol{K} = -\mathrm{grad}\ \Omega \tag{4-6}
\end{equation}

これを(4-5)式に代入すると
\begin{equation}
\frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t}= -\mathrm{grad}\ \Omega -\frac{1}{\rho}\ \mathrm{grad}\ p - \mathrm{grad} \left(\frac{1}{2}q^2 \right) + \boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega} \tag{4-7}
\end{equation}
なにやら\mathrm{grad}がたくさん出てきた。そこで\mathrm{grad}で右辺の3項をまとめることを考える。そのためには第2項の\rho\mathrm{grad}の前に出てしまっているのをなんとかしなければならない。これは以下の条件を課すことで解決する。

条件2 バロトロピー流(密度が圧力だけの関数である流体)と仮定する
第2回の記事でも述べたとおり、バロトロピー流では以下の式が成り立つ。
\begin{equation}
\rho = f(p) \tag{4-8}
\end{equation}
ここで少々唐突というか強引ではあるが以下のような関数Pを定義する(補遺)
\begin{equation}
dP=\frac{dp}{\rho} \tag{4-9}
\end{equation}
するとこの関数Pは(4-8)式が成り立つ限り圧力pだけの関数であるから(圧力関数と呼ぶ)、合成関数の微分*2によって以下の式が成り立つことになる。
\begin{align}
\mathrm{grad}\ P(p) &= \frac{\partial P(p)}{\partial p}\ \mathrm{grad}\ p \\
&=\frac{1}{\rho}\ \mathrm{grad}\ p \tag{4-10}
\end{align}
この結果を(4-7)式に代入して整理してみよう
\begin{align}
\frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t}&= -\mathrm{grad}\ \Omega - \mathrm{grad}\ P - \mathrm{grad} \left(\frac{1}{2}q^2 \right) + \boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega} \\
&=-\mathrm{grad}\ \left(\frac{1}{2}q^2+P+\Omega \right) + \boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega}\\
&=-\mathrm{grad}\ H +\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega}\ \text{、} \hspace{10pt} H=\frac{1}{2}q^2+P+\Omega
\end{align}
最後にまとめた\mathrm{grad} 内の関数Hをベルヌーイ関数と呼ぶ。
またここで得た式は重要なので改めて書いておく。
\begin{equation}
\frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t}=-\mathrm{grad}\ H +\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega} \tag{4-11}
\end{equation}
さてこの式は条件1と条件2を課したときに導かれた式であることを見てきた。しかしこれらの条件はいずれも一般性を失うほど厳しい条件ではなく、(4-11)式の汎用性は高いと考えて良さそうである。なぜなら(4-11)式が成り立たないのは、バロトロピー流でないときか外力Kが保存力でないときに限るからである。
それではもう少し厳しい条件を課して(4-11)式を簡潔に表現できないだろうか。方針としては\displaystyle \frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t}\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega}をそれぞれ消去するような条件を考える。そこでまずは以下の条件を仮定しよう。

条件3 渦なしの流れを仮定する
渦なしの流れとはつまり
\begin{equation}
\boldsymbol{\omega} = \mathrm{rot}\ \boldsymbol{\mathcal{v}} = 0
\end{equation}
を満たす流れのことである。
ここで一般的な
\begin{equation}
\mathrm{rot}\ {\bf A} = 0 \hspace{5pt} \text{が成り立つならば}\\
{\bf A} = \mathrm{grad}\ \varphi \hspace{5pt} \text{を満足する} \varphi \hspace{5pt} \text{が存在する}
\end{equation}
という事実*3を用いると
\begin{equation}
\boldsymbol{\mathcal{v}} = \mathrm{grad}\ \Phi \tag{4-12}
\end{equation}
と書き表すことができる。ちなみにこの\Phiは速度ポテンシャルという。さてこの結果を(4-11)式に代入すると
\begin{align}
\mathrm{grad}\ \frac{\partial \Phi}{\partial t}&=-\mathrm{grad}\ H \\
\mathrm{grad}\ \left( \frac{\partial \Phi}{\partial t} + H \right) &=0\\
\frac{\partial \Phi}{\partial t} + H &= f(t) \tag{4-13}
\end{align}
を得る。ここでf(t)積分定数であるが、\mathrm{grad}積分なのでtだけが変数として残った関数である。そしてこの(4-13)式を圧力方程式もしくは一般化したベルヌーイの定理という。
本書の説明がここまでなので、だからなんだというような式だが\mathrm{grad}が取り払われて時間tだけの簡単な微分方程式にまとめることはできた。

では次にもうひとつ別の仮定を考えてみたい思う。

条件4 定常流を仮定する
定常流とは時間による流れの変化がないことを意味する。時間による変化がないということは
\begin{equation}
\frac{\partial \boldsymbol{\mathcal{v}}}{\partial t} = 0
\end{equation}
が成り立つ。すると(4-11)式は
\begin{equation}
\mathrm{grad}\ H =\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega} \tag{4-14}
\end{equation}
となる。ここで
\begin{equation}
H=\mathrm{const}
\end{equation}
を考えよう。これは空間上のある曲面を表し、特にベルヌーイ面という名前が付いている。そして(4-14)式から\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega}はベルヌーイ面に対して垂直なベクトル*4であることがわかる。
さらに\boldsymbol{\mathcal{v}} \times \boldsymbol{\omega}がベルヌーイ面に対して垂直ならば、\boldsymbol{\mathcal{v}}\boldsymbol{\omega}はベルヌーイ面に対して平行である。この様子を以下の図に示す。

f:id:youski:20180726023109j:plain:w400

これは言い換えると、ある流線上ではHが常に一定の値を取ることを示している。そしてこのことを特にベルヌーイの定理と呼ぶ。

(補遺)圧力関数の意味
(4-9)式で唐突に
\begin{equation}
dP=\frac{dp}{\rho}
\end{equation}
と定義したが最初は意味がわからなかった。ただこれは単に(4-7)式の\displaystyle \frac{1}{\rho}\ \mathrm{grad}\ p\mathrm{grad}\ Pの形に持っていくためにそう定義したという風に解釈するしかなさそうである。そして\mathrm{grad}\ Pと表現できるならPはポテンシャルであると解釈される。もっと言えば、Pは圧力pによって貯えられるポテンシャルエネルギーと解釈しても良い。

・まとめ
実際に運動方程式から出発し、外力の保存力仮定、バロトロピー流の仮定、そして渦なしや定常流の仮定を通して方程式を整理し、ベルヌーイ関数やベルヌーイの定理という事実に至るまでの流れを見てきました。ベルヌーイ関数やベルヌーイの定理については翼の揚力発生等にも関わる重要な物理的意味がありますので次回の記事で述べたいと思います。